本書の「作家のことば」で著者のチョン・イヒョンは、「今は、親切な優しい表情で傷つけ合う人々の時代であるらしい」と書いています。それは、今私たちが日々生きて感じている苦痛や数々の不幸が、一見それとわからない遠い地点から成された抑圧や搾取によって生じたものであるからでしょう。このことは、本書が韓国で刊行された2007年当時に比べ、さらに周到になっていると思います。暴力はより遠くから、そしてより広く、優しさだけではなくさまざまな感情の襞をまといながら、私たちの生活を覆っていると感じます。本書が描くいまだ名づけられない感情の物語が、現在を生きる人々の糧になればいいと思います。