2024年10月、短編集『0%に向かって』が邦訳出版され、初めて日本に紹介されることになったソ・イジェさんのトークイベントが開催されました。今回はソ・イジェさんはじめ、この作品の翻訳家の原田いずさん、原著の出版社「文学と知性社」のユン・ソヒさん、邦訳を刊行した左右社の編集者の神山樹乃さんが登壇し、ソ・イジェさんの作品の魅力や制作背景について語りました。
韓国の独立映画の苦境を描いた「0%に向かって」
表題作「0%に向かって」は、商業映画が躍進する一方で厳しい状況が続く韓国の独立映画の観客占有率が一桁にまで落ち込んでいる現状を象徴するタイトルです。このような厳しい状況の中で映画を作りたい、続けたいと思う気持ちや絶望感を描いています。
ソ・イジェさん自身、大学で映画を専攻し、実習で映画の撮影、制作を経験したそうです。「小説執筆へと転向した経緯は映画と関連がある」とソ・イジェさんは語り、「小説原作の映画は多く、良いシナリオが良い映画を作ると思っている。イメージとして伝える映画とテキストで伝える言語の違いを体験してみたいと考え小説を書いたり、映画にした作品を小説で書いたりしたことがある」と話しました。
次に、翻訳家の原田いずさんが翻訳作業について話しました。原田さんは「ソ・イジェ作品の魅力はテキストの視覚的な表現、使い方だ」と説明。「話の流れが時系列に沿っていない、現在と過去を同時に浴びているような感覚がとても魅力的です」
翻訳時の苦労については「登場人物の外見があまり描写されていないため、性別が分からないケースが多く、日本語では男女で使う言葉が違うため難しかった」と述べました。
さらに、テキストを絵のように配置する作品があり、編集者の神山さんとデザイナーと密に相談しながら完成させたことも語られました。作家特有の書き方や言語の違いがある中で、日本の読者にどう伝えるかを考え続けた翻訳者及び関係者の努力が伝わってくるエピソードでした。
日本の独立映画に影響を受けた
影響を受けたコンテンツに関する質問に対して、ソ・イジェさんは「高校時代に日本の独立映画を多く観た」と回答。「岩井俊二、黒沢清、特に塚本晋也の作品が大好きだった。江戸川乱歩の小説が原作となっている映画『双生児』も非常に好きだった」
そして、小説を書き始めた頃を振り返り、「一度きりの人生で、話を扱う仕事をすれば、いくつもの人生を生きられるのではないかと思った。自分が美しいと思ったものを小説にしたい」と述べました。
翻訳者の原田さんはその発言に読者として共感し、「ソ・イジェさんの作品は、主人公たちが感じている何かを好きな気持ち、その喜びを読者も一緒に感じることができます。日本の読者さんにもそのような気持ちを感じてほしい」と締めくくりました。
今回のイベントを通じて、ソ・イジェさんの作品活動の背景を理解でき、作家と作品に対する翻訳者の熱意や愛情も強く感じる時間でした。今後も韓国と日本の読者が共感できるような斬新な作品を生み出していただけたらと思います。
(レポート: 崔里奈)
当日の様子は以下から視聴できます。