
本書は1976年から78年にかけて、検閲の目を逃れるようにして韓国で断続的に発表された連作小説集です。すべてが強引に、そこに生きる人々の生活など顧みられることなく暴力的に、国や行政がものごとを進めてゆくのは、いつの時代も変わらぬものであり、これは永遠に文学のテーマだと感じます。本書はそうした暴力がまだ直接的に、目に見えるものとしてあった時代の話です。そして、そのようななかで生きる人々の魂は苛烈です。多くをなぎ倒すような激しい暴力と、それに対峙するべく鍛えられた、あるいは対峙するなかで痛めつけられた苛烈な魂。それは、人々の生活と、暴力の発生する場所との距離がかけはなれた現代では失われたものかもしれません。70年代の魂を描く本書と、2000年代のそれを描くチョン・イヒョン『優しい暴力の時代』を、ぜひ合わせて読んでいただきたいと思います。