
ことばでは言えない生のために――。
自らを物語ることばを持てなかった者たちの語りえない声に耳を澄まし、人の生を見つめた九つの短篇集。
本作には、伊藤博文を暗殺した安重根、1930年代の京城、朝鮮戦争に従軍した老兵士、そして現代のソウルに生きる男女などが登場する。時代と空間はめまぐるしく変遷するが、作家はあくまで個人の内面に焦点を当て、一人称の語りに徹して物語る。
キム・ヨンスの作品は、歴史に埋もれている人間を描くことで歴史に挑もうとする。つまり、小説によって画一的な〈歴史〉を解体し、〈史実〉を再構築しようとする野心に満ち、歴史書と小説のどちらがより真実に近づけるのかを洞察する壮大な実験の場としてある。