新緑の山河ににじみ出る全羅道の滋味、そして懐かしい故郷や力強い暮らしの物語があふれています。本書では、全羅道を代表する画家79人が、それぞれ心に刻んだ故郷の風景や全羅道の特定の場所を絵に描き、その土地に宿る情感や思い出を文章で綴っています。
「黄色いサンシュユの花に降り注ぐ陽光、花影を落とす苔むした黒い岩……温かな春の日。ふと目を引いたのは、農家の牛舎と、そこにいた黄色い牛の澄んだ大きな瞳だった。熟成された時間が光を帯びる、まさに春の一日だった」
画家カン・ヨンギュンは、かつて求礼・山東面で出会った感動を作品《春の陽》に込めています。
「青菜を並べるおばあさんたちの1000ウォンの値に揺れる手先と一緒に、細い枝をふるわせながら木陰で挨拶を交わす柳が好きだ。風に吹かれればそのまま身をゆだねる素直さも、行き交うバスの背を撫でながら『行ってらっしゃい』『おかえりなさい』と声をかけるこの木も好きだ。」
画家イ・ジェチルは、咸平五日市の入口に立つ一本の柳を描きました。開発の波に伐られる前に、長寿を祈って遺影を残すような切実な思いが込められています。全羅道の山河に染み込んだ歴史と精神、人びとの暮らしを、絵と文で味わえる一冊です。

