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2024.12.07
イベントレポ:第7回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」授賞式 -コンクールの審査員が語る「訳すということ」-

2024年11月23日、第7回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」授賞式が行われました。出席者は最優秀賞を受賞した金子博昭さん、審査員の星野智幸さん、オ・ヨンアさん、古川綾子さん、そして課題作の著者であるソン・ジヒョン作家です。
金子博昭さんは総応募数155名の中から選ばれ、課題作2作品の最優秀賞をダブル受賞しました。授賞式は、表彰後にそれぞれの課題作の著者からのお祝いの言葉、受賞者によるスピーチ、そして審査員からの総評という形で進行されました。授賞式後は、審査員3名によるミニトークイベントが行われました。

コンクールの課題作の著者からのお祝いの言葉

表彰が行われた後、課題作2作品の著者からのお祝いの言葉が続きました。
『우상의 눈물(偶像の涙)』の著者であるチョン・サングク作家は「文学作品の翻訳は、翻訳される国の慣習や情緒に合わせて表現しなくてはならない。言葉を扱う者としての使命感、職人魂なくして良い翻訳作品は生まれないだろう。翻訳作品は、翻訳者によるもう一つの作品だと思う」というメッセージを寄せ、受賞者を祝福しました。

そして、『여름에 우리가 먹는 것(夏にあたしたちが食べるもの)』の著者であるソン・ジヒョン作家はコンクール参加者たちへの感謝の思いを次のように語りました。「(このコンクールへの応募のために)私の作品を翻訳している人たちがいるのだと思うと、一人で執筆しているときもあまり寂しくなかった。作品が翻訳されて、私の元から遠くに巣立ち、無事に着いたという知らせを受け取ったような気持ちだ」

受賞者・金子博昭さんのスピーチ

受賞者である金子博昭さんによるスピーチが行われました。地元・新潟での読書会やチェッコリ翻訳スクールでの学びに触れ、「翻訳は一人の作業だが、ともに学び切磋琢磨する仲間がいたからこそ勉強を続けることができた」と振り返り、「今回の受賞でやりたいことが少し明確になった。これからも誠実な気持ちで韓国文学と向き合っていきたい」と今後の抱負を語りました。

次に、審査員からの総評が行われました。審査委員の星野智幸さんは「金子さんの翻訳の完成度が高く、2作品とも審査員の意見が一致したため、審査時間が非常に短かった。個人的には、金子さんは私と同じ年齢で、同世代の受賞がうれしく刺激になった」と総評を述べました。

審査員からの総評、翻訳時に注意したいこと

授賞式後、審査員による「訳すということ」についてのミニトークイベントが行われました。そこでは審査の考え方や、翻訳する際の原文へのアプローチについて語られました。
古川綾子さんからは「原文の内容によって得手不得手はあると思うが、苦手意識を克服する努力や弱点を補う姿勢が重要ではないか。最近の応募作品の中には、機械翻訳で全体を把握し、日本語を創意工夫したとわかるものがある。文法や時制の微妙な誤りが審査結果を左右する時がある。アウトプットは大事だが、原文に何が書かれているかを大切にしてほしい」と具体的なアドバイスがありました。
星野智幸さんは、「小説をさまざまな『海流』のある海だと捉えるならば、原文を読む際は海流をしっかりとらえ、どの言葉を選ぶかが大事なポイントだと思う」と述べました。
オ・ヨンアさんは「訳す時にさまざまな訳語からどの言葉を選び取るのか決めるのは自分。上級者は辞書やネット検索からいったん離れ、自分の感性に懸けていいのではないか。まずは課題作自体を楽しんで味わってほしい」と話しました。

審査員の方々は、「原文をしっかり読むことの大切さ」を異口同音に語りました。受賞者の金子博昭さんは、長年の読書会や学習で培った精読の力や知識、そして感性が結実し、作風がまったく異なる2作品を見事に訳し分けて初のダブル受賞という快挙につながったのだと思います。コンクールの課題作2作品の邦訳は、出版社クオンの「偶像の涙」「夏にあたしたちが食べるもの」として発売中です。
(レポート:今野由紀)

当日の様子は以下から視聴できます。

共 催:⼀般社団法⼈ K-BOOK振興会、韓国国際交流財団
主管:K-BOOKフェスティバル実⾏委員会
後援:(一財)⽇本児童教育振興財団、
韓国⽂学翻訳院、アモーレパシフィック財団、
李熙健韓日交流財団、(公財)一ツ橋綜合財団、
(一財)SUN教育支援機構、
永田金司税理士事務所、株式会社クオン