今年のK-BOOKフェスティバルには韓国第3の都市である大邱市から、地域に根ざして活動を続ける出版社7社と1書店が出店しました。イベントの冒頭ではまず各社の代表が自社の特徴や本づくりに込めた思いを語り、後半は創立70周年を迎えた出版社〔학이사(ハギサ/学而思)〕から刊行されている2冊の本の著者が、自らの作品について語りました。
大邱の出版社7社・書店1店が順番に自己紹介
司会・進行を務める〔여행자의 책(ヨヘンジャエチェク/旅行者の本)〕のパク・チュヨンさんが切れのよいジョークで会場を盛り上げ、明るい雰囲気のなか各社の代表による発表が始まりました。
〔나무와문화연구소(ナムワムンファヨングソ/木と文化研究所)〕は、夫婦二人で運営している樹木図鑑に特化した出版社です。5種類の樹木図鑑と『名画を通じて見る花と木の物語』などの本を紹介しました。
二番目に話したのは、「込める」という意味を持つ出版社〔담다(タムタ)〕。「人々の人生が込められた深くてやさしいエッセイを中心に出版している」と韓国語と日本語で説明してくれました。
続いて、さまざまな分野の本を出版している〔부카(ブカ/BOOKAA)〕は、『大邱ことば活用辞典』や、韓国で初めてカステラを作った人がモデルとなった小説『朝鮮のベーカリー』などを紹介。
出版社〔소소담담(ソソダムダム)〕のシン・ジウォンさんは「できたばかりの出版社なのでいつまで続けられるかわかりません」と前置きしながらも、我が子に遺産として残せるような本を出版したいと涙声で語り、会場の感動を誘いました。
そして、進行も務めた〔여행자의 책(ヨヘンジャエチェク/旅行者の本)〕のパク・チュヨンさんに順番が巡ってきました。同店は大邱空港近くに店舗を構えてブックステイなども行っています。「10年間勤めた職場を辞めて書店を開いたきっかけは、クオンの金承福代表から『書店を作ってはどうですか』と人生をぶち壊す言葉をかけられたことだ」と話し、開場は笑いに包まれる場面も。
博物館の展示や施工などの事業を行っている出版社〔컴엔시(コムエンシ/COM.ANDSEE)〕は、「博物館と遊ぶ」をモットーに作ったムックが思いがけずたくさん売れて「奇跡です!」と喜びを表しました。
大邱で最初の出版社であり、すでに500の本を刊行している〔학이사(ハギサ/学而思)〕は、読書アカデミーやブッククラブを通して作家と読者を発掘し、地域の人と作家を繋ぐ活動にも努めているとのこと。
そして最後に〔한티재(ハンティジェ)〕のオ・ウンジさんが「人と人、人と自然、現在と未来の人が共存できる世界を大事にしたい」と本づくりへの思いを語り、「日本の皆さんが本を愛し、購入する姿を見て希望をいただいた」と話しました。
2人の著者が語る
イベントの後半では、出版社〔학이사(ハギサ/学而思)〕から刊行され、大邱地域優秀出版コンテンツに選ばれた『지금,여기에서-곡란골 일기(いま、ここから―コンナンコル日記)』と、刊行間もない『길에서 역사를 만나다(道で歴史に出会う)』の著者お二人が自著について語りました。
『지금,여기에서-곡란골 일기(いま、ここから―コンナンコル日記)』の著者であり、詩人のチョン・ヨンエさんは、「癌を患ったことで始めた田舎暮らしで心身ともに癒された」と語りました。「日々の暮らしや、その中で感じたことを綴った本書を通じて「日本の皆さんの心だけでも癒すことができたらうれしい」
『길에서 역사를 만나다(道で歴史に出会う)』の写真作家ウ・ドンユンさんは、バイクで日本全国を巡り、日本の近代化のために労働力として投入された朝鮮の人々の痕跡を本に記したそうです。「過去の出来事を歪曲も誇張もせずにありのまま記録して、次世代の若者たちに伝えるのが役割だ。これからは各地にある慰霊碑の建立に携わった人々を尋ねて記録に残すのが私のやるべきことです」
最後に進行役のパク・チュヨンさんは「大邱に来るとまるで大きな一冊の本のように感じてもらえると思う」と語りました。皆さんの話は個性豊かで興味深く、一人ひとりの人生が垣間見える、まさに一冊の本のようでした。そんな街と人を体感するためにぜひ大邱を訪れてみたいと思いました。
(レポート:大窪千登勢)
当日の様子は以下から視聴できます。