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2021.12.03
イベントレポ:キム・ヨンス×星野智幸対談「小説家の仕事」

2021年K-BOOKフェスティバル最後のイベントは、小説家キム・ヨンスさんと星野智幸さんの対談でした。お二人が初めて出会ったのは2010年の北九州における文学フォーラムで、なんと今回10年ぶりの再会が実現。若手作家として出合ったお二人は今やお互いの国の言語に複数の作品がそれぞれ翻訳され、読者に親しまれています。その10年のお二人の歩み、そしてコロナ禍を生きる小説家の日常について、翻訳家きむ・ふなさんの進行でお話を伺いました。

出会い・小説家が翻訳をすることについて

お二人が出会った10年前は、まだキム・ヨンスさんの作品は日本語に翻訳されたものがなかったそうです。

星野 ここから始まっている読者の方々にとっては韓国の文学がそこにあり、翻訳で読めるということがごく自然で当たり前のようになっています。しかし10年前、2010年の段階でさえキム・ヨンスさんの小説を本で読むことはできませんでした。さらにその前はもっと少なかったです。今振り返ると不自然に感じますね。
何でこんなに時間がかかってしまったのかは色々思うところはありますが、本当にその積み重ねで、作家たちが近寄ろうとしたこと、それを望んでバックアップしてくれた方々、一気にやり遂げようとせず地道にやってきた結果が今花開いているのだと思います。一発当たったように見えるかもしれませんが全然そうじゃなく、本当に地道な下地作りの上に今があるのです。失われないように、これを維持する努力も続けなければと思います。

二人は海外作家の作品を母語に翻訳されているという共通点もあり、キム・ヨンスさんはアメリカの作家レイモンド・カーヴァーを、星野さんはスペインの作家カミノ・ホセ・セラを翻訳されてします。翻訳という作業は、小説の書く上でどのような意味を持つでしょうか。

 

キム 「翻訳された言語」は、原文の言語と韓国語の間のどこかに存在します。その言語は全く新しい言語という感覚が強いです。原語と韓国語の間で、新しい言語が生まれると感じることが多くあります。そこでまた、韓国語の可能性も発見します。言語というのは、絶えずに違う表現を受け入れ、拡張していくものであるべきです。それを通じて表現が、世界がより豊かになるのです。ですので言葉を翻訳してみるというのは、母語の読み書きくらいに重要であると考えます。

星野 僕が翻訳をしたのは小説家になる前のことですが、小説を書くというのはそこにあるかどうかもわからないものを言語にしていく作業で、翻訳とは自分があたかも原著者になったつもりでするものだと考えました。自分の考え方、人格はいったんオフにして、テキストから入ってくる作品を日本語として表していくのが翻訳作業だと感じました。翻訳というのは自己表現ではないし、そして小説というのもわからないものを言語にしていくまた違うレベルのことで、自己表現ではないかもしれないと感じました。翻訳はそれを理解するための作業でした。小説家になりたい方は、まず翻訳をやってみるといいかもしれません。

お互いの作品について

キム・ヨンスさんの近刊『夜は歌う』(新泉社、2020)は、韓国の読者もよく知らない歴史を素材にした小説です。海外の読者はそのような作品をどう読めばいいでしょうか。お二人はお互いの作品をどのように読まれたのでしょうか。

キム (『夜は歌う』の素材は)私自身もあまり触れたことのない物語でした。この物語を書きたかったのは、ある人が自分の人生を根こそぎ変えるような問いかけを受けたとき、その質問にどのように向き合い、その答えがどのように人生に引き継がれていくのかを探ってみたかったからです。この物語は1930年代の満州という特殊な舞台から始まりますが、結局はそういう、人生にもつながる問いかけに集約され、その一つだけが残ります。その問いかけは今の私にも有効で重要なものですし、ほかの国の読者の皆様にも有効なのではないかと思います。なのでこの物語は読んでいただけるのではないかという思いがありました。

星野 僕もこの作品はめちゃくちゃ好きです。無人島に行くときに必ず持っていくべき本ですね。
人を「こういう人だ」とか「こういう性質だ」とか、「何人はこうだ」「男はこうだ」といったカテゴライズを通じて物事を見ることをキム・ヨンス文学は徹底して嫌い、そこからなんとか逃れようとします。そうじゃないあり方もあるんじゃないかということをずっと探っているように感じます。そういう外から押し付けられるアイデンティティから人間社会が免れることはできませんが、にもかかわらず隙間にはそうじゃない人が存在するというのを文学を通じて見せてくれている。それが最もよく表れている作品が『夜は歌う』で、ぼくは幽霊作家ですもそうでした。今を生きる人間として非常に共感しながら読みました。

キム 大昔のことですが星野さんの『目覚めよと人魚は歌う』を読んだときは大きな衝撃を受けました。その作品で披露された実験的な文章の形、外国的なものと日本的なものが混ざり合い、話者が入り混じって創り出す言葉の衝撃が今も印象に残っています。とてつもないエネルギーを感じましたし、火傷をしたかのように驚いたことを覚えています。それから大分時間が経ち最近『人間バンク』を読んでまたびっくりしましたね。描かれた想像力があまりにも若々しく、新鮮なもので、どうしたらそんな想像力をずっと保つことかできるのか、今日はその秘訣をお伺いしたかったです。

作家のみなさんが最もよく聞かれ、最も困る質問がたぶん「創作のアイディアはどうやって得るのか」でしょうね。星野さんは「ソファーに横になってぼうっとすること」、キム・ヨンスさんは「何か思い出したときすぐメモが取れるノートを持ち歩く」ことだそうです。そしてそれぞれ、「すぐにソファーを買わなきゃ」「じゃ僕はノートを」ということに。

 

詩のような小説

来年もまたキム・ヨンスさんの新作が2冊、翻訳が予定されているそうです。その一つの『七年の終わり』(仮題)には、キム・ヨンスさんの詩も載っているとのこと。実はキム・ヨンスさん、小説家以前に詩人としてデビューされているのです。

星野 (先に行われた翻訳者座談会で)キム・ヨンス作家の小説はまるで詩のようだという話がありましたが、若い頃の恋愛小説のプロットを借りた作品もそうですが、中に入れている言語は、やはり小説を形を借りた詩を書かれているのではないかと感じます。

キム 詩でデビューしたので詩に対する愛情は残っています。最初は詩と小説両方を書いていましたが、同時に書くと詩はそうでもないですが小説のほうが詩から影響されることが多々ありました。そのときは小説のほうがもっと書きたかったので泣く泣く辞めましたが、詩に対する憧れはずっと持っていて、今は詩人として書くことはできませんが少しでも詩のような文章を書きたいという思いはあります。そこで小説の中で、今は書けない詩への未練を晴らしているのかもしれませんね。

スペシャルゲスト「A」

話もあと少しのところ、キム・ヨンスさんとは15年のお付き合いで、星野さんとも2000年の日韓作家交流でお会いされたキム・エランさんがスペシャルゲストとして登場されました。

キム・ヨンスさんの作家としての魅力を、キム・エランさんは「いつも何かを学ぼうとする人。学ぶということは小説と同じで順序があり、一気にはできず、そのための誠実さを併せ持つ作家」と語りました。そしてキム・エランさんは星野さんの作品についても感想を話しました。

キム・エラン 星野作家の「モミチョアヨ」という短編が好きです。サッカーのコーチのことを「ヒョンニム(兄貴)」と呼ぶシーンでは大声で笑ってしまいました。本を読んで声を出して笑ったのは久しぶりでした。「日韓交流」や「友情」という言葉をよく耳にしますが、小説の中の友情が堅苦しく仰々しいものではないのがよかったです。シリアスでも、深刻でもないのにどうして心にこんなに響くのだろう。大きな言葉ではなく、小説の中で描かれている小さな言葉を通じて本当の交流ができていると感じました。そんな風に笑い、今度は「眼魚」という短編を読んで悲しい気持ちになりました。それぞれの国の事件ではありますが、私たちは海とまつわる同じ悲劇を共有しているんだと思いました。

星野 2000年のときもこういう風に話しましたね。僕も今回キム・エランの『外は夏』を読んで、「眼魚」についておっしゃってくださったように、その気持ちがここで今文学を書いている、ここにいる理由かもしれないという共通の気持ちを感じました。特に最後の作品は一文字読むだけで感情が崩壊しそうになるので読み返すことが難しいくらいでした。これも無人島に持っていかねばならない作品です。

キム・ヨンス 本来ならエランさん、星野さんとたくさんの方々の前でこんな楽しい話をしたかったですね。コロナのせいで以前のようにできないことが増えたのはとても残念ですが、また、コロナであるにもかかわらず、やらなければならないことがあります。コロナでも合わなければならない人、行かなければならない場所があります。そこで思うのですが、コロナのおかげで自分が重要に思うこと、大事に思うこととは何かを気づかされてもいますね。たくさんの苦しみや不便がありましたが、こうやって星野さんやエランさんに会ってお話しするのが楽しいということに改めて気づきましたし、どんなことがあっても私たちはこのような活動を続けるのではないかという希望があります。
そして今、見えないところで私たちの対話を聞いてくださっている読者の皆さんのことを考えます。大変な中でもこうして私たちが出会える空間があるというのはどれほど感謝すべきことなのでしょうか。ただ一つ惜しいのはビールがないということですね(笑)。それはコロナが収まってからの楽しみにしておきましょう。

やっぱり最後はビールですね(笑)。実際お会いすることはまだできなくても、3人の作家のお話を小説を通じて聞くことがこれからもどんどん楽しみになります。

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(レポート:李善行)

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