K-BOOKフェスティバル2021 in Japan 4日目の11月19日(金)に「音楽評論家キム・ヨンデ氏と語る 〜欧米ミュージックシーンから見た、BTSとK-POPの躍進~」と題してキム・ヨンデさんと黒田隆憲さんのオンライン対談が開催されました。(ナビゲーターは『BTSを読む』の訳者でもある桑畑優香さん、日韓の同時通訳はパク・チョンソさん、韓日の逐次通訳は嵯峨山みな子さん)
このイベントの2日前にはBTSが2年ぶりの観客を入れたコンサートのためアメリカへ向けて韓国を出発、このレポートを書いている22日(月)にはBTSが「2021 American Music Awards」でアジア人として初めて「Artist of the Year」を受賞、さらに「Favorite Pop Song」「Favorite Pop Duo or Grope」を受賞し3冠を達成と、まさにBTSの世界的躍進が大きなニュースとなっている中、とてもタイムリーなイベントとなりました。
イベントはまず事務局から開催の挨拶、ナビゲーターからこの対談に至る経緯の話があり、登壇するお二人の自己紹介、続いて黒田さんが事前に送っておいた質問にキムさんが答えていくという形で進んでいきました。
■日韓の音楽評論家の対談
日本でも4万部超のベストセラーとなった『BTSを読む』の著者であるキム・ヨンデさんは、音楽評論家として韓国やアメリカの媒体で音楽コラムを執筆、Mnet ASIAN MUSIC AWARDS(MAMA)の審査員も務めています。日本語で読める著書は今のところ『BTSを読む』(翻訳 桑畑優香 / 2020年、柏書房)だけですが、自己紹介の中で来年、辰巳出版より『今ここのアイドル―アーティスト』(原題)の日本語版が出版予定とのうれしい告知がありました。
黒田隆典さんは20年以上ライター、エディター、カメラマンとして活動、様々な媒体で音楽を中心にカルチャーに関するインタビュー記事やコラムを執筆しています。桑畑さんが興奮気味に「ポール・マッカトニーにインタビューされたんですよね!どんな感じでしたか?」と質問すると、画面越しにキムさんも興味津々の様子でした。
そんな黒田さんからの質問について、キムさんは「これまで受けてきたインタビューの中で一番深い質問リスト」と話していたそうで、大きな期待ともに日韓の音楽評論家の対談がはじまりました。
■BTSの影響力について
1つ目の質問は『BTSを読む』出版以降、つまり「ダイナマイト」以降のBTSの活躍について。キムさんは「この本の執筆中にBTSはすでにビッグアーティストで、その時から考えている以上に大きくなるかもしれないと予想はしていましたが、それよりもはるかに大きな変化を彼らは作り出しています。とてもうれしいこと、驚くべきこと」とした上で、「ポップスの歴史の中でアジア人が世界の流れや若さを代表するということはこれまでありませんでした。今のBTSの成功はアジア人としてはじめてそういう存在になっているということであり、非常に凄いことです。マイケル・ジャクソンが世界の人々に良い影響を与えたように、BTSも今そうした影響力を及ぼしていると思います」と語りました。
■BTS、K-POPとモータウン
ここで名前が挙がったマイケル・ジャクソンを起点に、黒田さんがBTSのヒットソング「ダイナマイト」と1960~1970年代のソウルミュージックのサウンドについて「通じるものがあると思いますが、キムさんはどう思いますか?」と問いかけると、キムさんもそれに同意し、K-POP産業の作り手がマイケル・ジャクソンやモータウン・サウンドから受けた影響、アメリカでのレトロサウンドの流行を解説しながら、「ダイナマイト」がアメリカでヒットした理由を分析しました。
続けてモータウンのスター量産システムと日韓のアイドル量産システムの話題に。キムさんがアメリカ、日本、韓国のスター量産システムやサウンドの違いを解説すると、黒田さんは日韓のヒップホップの可能性について言及、さらにキムさんがアメリカのアイドルがヒップホップを活用できなかった理由、K-POPがそれを活用できた理由に触れました。これはBTSをはじめK-POPが好きな方にとって興味深いテーマだと思いますが、そんな視聴者の興味や期待を読み取ったかのように黒田さんがさらに「BTSがヒップホップをやっても批判されなかった理由について詳しく」と突っ込みます。キムさんはこの質問に答えながら、「一つおもしろい話を紹介してもいいですか?」とビッグヒットのプロデューサーであるパン・シヒョク氏とBTSにまつわる逸話を紹介。詳細はアーカイブ配信をご覧いただくとして、この逸話からは「BTSがヒップホップをやるならば彼らが直接歌詞を書くべきだ」と考えたパン氏の強い意志、それに応じたBTSのメンバーの真摯な姿勢や今の彼らの活躍の原点をうかがい知ることができたような気がしました。
■リアリティがある歌詞
黒田さんも「とてもおもしろい話ですね」と反応し、「リアリティがある歌詞、”love yourself”などのメッセージがZ世代の心に刺さった」と話はBTSの歌詞について展開していきました。キムさんは「”love yourself”といったメッセージはこれまで大衆的な音楽の中で何度も扱われてきた平凡なテーマなのに、なぜBTSの場合はこれほどまでに力を持つのか。それはBTSの歌詞が誰もが一般的にいえるストーリーではなく、自分たちの経験からにじみ出ているストーリーだからではないか」と指摘し、「同時代のマイノリティにも大きな影響を与えていて、しかもそれが一方通行ではなく双方向。社会的な変化がある今の雰囲気だからこそBTSが成功できたと思います。次はどういうことを語ってくれるのかとファンは期待し、今後さらに大きな変化があるのではないかと思っています」と予測しました。
黒田さんが「ごくごく個人的な歌詞が普遍性を持つ、それがポップミュージックの醍醐味だと思います」と大きく頷き、BTSと日本のPerfumeのヒット戦略の共通点を挙げながらファンダムの力について話を広げると、キムさんは「関与度が高いファンがどれだけいるか、どれだけ作れるか」とこれからのポップミュージックの展望を語り応じました。
■K-POPとJ-POPのこれから
Perfumeをきっかけに桑畑さんからキムさんにJ-POPの話題が振られ、キムさんは1980年代末~1990年代はじめに聴いていたというJ-POPを鼻歌も交えながら紹介。ここでキムさんから黒田さんに「1990年代後半~2000年代はじめのJ-POPはとても良い時期だったと記憶しています。その時に比べると今は世界的に知られているスターがあまりいないと思いますが、その点についてどうお考えですか?」と質問が。黒田さんは日本における音楽の聴かれ方の変化などを解説しながら質問に答えた上で、J-POPのこれからについて前向きな期待を語りました。
続く視聴者からの質問パートでは、日韓のアーティストマネジメント、両国の国内市場規模、K-POPは国家戦略かどうか、K-POPの定義とは何かなど、対談内容を踏まえた非常に興味深い質問が数多く寄せられました。締めくくりではキムさんから「ここだけの話」があり、You Tubeのチャットは大盛り上がり。最後の最後、名残惜しそうに登壇者が手を振る中、キムさんがカメラに向けて見せてくださったのはスマホ画面。そこに映し出された1枚の写真に視聴者が大興奮する中でイベントは幕を閉じました。日韓の音楽評論家による対談は、お二人の幅広く深い知識をベースにBTSとK-POPの今を読み解く充実の内容でした。
昨年のK-BOOKフェスティバルで開催された「韓流MCの古家正亨さんが語る『K-POPとK-BOOK』」では、古家さんが「最近のK-POPアイドルは詩を書く。それができないと残っていけなくなりつつある。読書からボキャブラリーを得て、知識や経験を生かして、詩を書く」とお話されていたのが印象的でした。今回の対談では「BTSが自分たちの経験から書くリアリティのある歌詞」の魅力が語られ、点と点が繋がり、BTSとK-POPの躍進の理由の一つが少し理解できたように思いました。そして「リアリティ」という点は、韓国文学とも通じるものがあると個人的に感じました。黒田さんが「ごくごく個人的な歌詞が普遍性を持つ」と語っていたように、韓国文学もまたごくごく個人的な話が、同時代を生きる一読者の私の物語のようでもあり、社会に生きる人間の普遍的な物語のようでもあり、それが一つの魅力だと思うからです。来年のK-BOOKフェスティバルでもまたK-POPとK-BOOKの点と点を結びつけてくれるイベントを楽しみに待ちたいと思います。
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(レポーター:北島あやこ)