故郷である全羅北道高敞郡月峰(ウォルボン)村の廃校を地域コミュニティ「책마을 해리(本の村ヘリ)」として再生させたイ・テゴンさん。日本の独立系書店の代表格「本屋B&B」を経営しながら、様々な活動を通して地域のカルチャー創出を牽引している内沼晋太郎さん。既存の「本屋」の枠をこえて活躍するお二人の対談は、進行役の内沼さんの質問にイ・テゴンさんが答える形で進められ、本の未来につながる貴重な話が交わされました。
「本の村ヘリ」の活動を支える収入源とは
「本の村ヘリ」の活動を、イ・テゴンさんがスライドを使って一つ一つ説明していきます。本屋や図書館の運営をはじめ、子どもたちが本作りと出版を体験する「小さな学校」事業、さまざまなイベントやワークショップの開催、さらには地域のお年寄りと絵本を作る学校や、著者を育てる学校の運営、等々。次々に紹介される活動は多彩でした。
内沼さんは、「これらの活動をビジネスとしてどう成り立たせているのか」と率直な質問を投げかけます。イ・テゴンさんは、村には入場料として本を一冊買うというルールがあり、「韓国の中年男性たちは、自分で本を買った経験があまりないため最初はひどく反発されたが、今は従ってもらっている」と笑いを交えて紹介し、その他に隣接しているカフェの収益、出版キャンプなどの売上もあることを丁寧に説明してくれました。
「本の村ヘリ」を、「本を作る空間」と「著者が生まれる空間」にしたかったというイ・テゴンさん。長年、編集者として多くの著者と仕事をしてきた経験から、「一度著者になった人は次の本を書くためにまた新たな別の本を読むようになる」と語ります。「本を書くことはランクアップした読者になることであり、著者が増えれば、それだけ多くの読者が生まれることになる」とも話しました。
また、地域の先生が作った本をたくさん出版していることについて、「教師は自分なりのイメージやテキストを長い間考えている人たちなので、より著者になりやすい」と言います。その身近な存在として「本の村ヘリ」があることで、さらに良い本を作れると話しました。
出版業界の現状と本の未来
イベントでは、韓国の出版業界の現状や、本の村を地方で開く意味、共に働く人たちとの新しい雇用関係、そして、これから本の村を開きたいと考える人たちへのアドバイスなども伺うことができました。
「民間レベルで行き来を増やし、互いに会って関係が深まれば、問題を一緒に解決する主体になれる」と語ったイ・テゴンさん。内沼さんも「お話を聞いて実際にこの目で見てみたいと思ったし、いつか日本でもそういう取り組みができたらいいなと思った」と話しました。
本の未来に対して後ろ向きな言葉ばかりが聞こえてくるこの時代に、常に前を向き、本と人との持続可能なかかわりを追求し続けるイ・テゴンさんの話には、本の可能性を広げるヒントがたくさん詰まっていました。国をこえてつながるお二人の活動に期待を膨らませつつ、これからもずっと注目していきたいと思います。
(レポート:大窪千登勢)
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