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2023.12.13
【イベントレポ】詩の言葉は踊る、弾む、こえる。キム・ソヨン×オ・ウンの二人の詩人と楽しむ韓国の詩

第8回翻訳大賞受賞作『詩人キム・ソヨンー一文字の辞典』(姜信子監訳・一文字辞典翻訳委員会訳)に続き、日本で詩集『数学者の朝』(姜信子訳)『奥歯を噛みしめる 詩が生まれるとき』(姜信子監訳・奥歯翻訳委員会)が刊行されたばかりの詩人キム・ソヨン。コラムの執筆やポッドキャストのDJなどでも多くのファンを持ち、2023年5月には詩集『僕には名前があった』(吉川凪訳)をクオン社から刊行した詩人オ・ウン。二人の詩人がみずから韓国語で詩を読み「詩人の存在とは」「詩が生まれる瞬間」など、詩の世界を語ったこの日のイベント。姜信子さんのコーディネートによって、会場、オンライン一体で豊かな世界を楽しみました。二人の詩人は「ポエムツアー」として、11月21日に福岡に入り、熊本県の水俣、菊池と旅を続け、東京でのイベントに臨みました。

詩の朗読からはじまり、詩の誕生秘話が語られた

まず、キム・ソヨン詩人が「数学者の朝」を、オ・ウン詩人が『僕には名前があった』から「三十歳」を朗読。オ・ウン詩人は「数学者の朝」にふれながら、詩人という存在について「ある場面や感情を正確にとらえる、不可能ともいえる正確さを追い求める人々が数学者であり詩人」と言い、キム・ソヨン詩人は「檻の中に閉ざされた単語や感情、状況をもう一度取り出して、再び生き生きとした状態を取り戻す」のが詩人の仕事だと述べました。

オ・ウン詩人が『僕には名前があった』に向き合っていたとき、癌で闘病する父と散歩をしながら「息子として生きる時間」を過ごし、公園にいる人たちを観察していたそうです。そんなオ・ウン詩人は、詩の生まれる瞬間についてこう語ります。「泣いてしまうと感情が解消されて、泣いた理由が曖昧になってしまう。自分の思いが満ちてきて溢れる寸前のところで、僕は詩を書き始める」

旅好きのキム・ソヨン詩人は「オキナワ、チュニジア、フランシス・ジャム」を朗読し、沖縄での長期滞在中のエピソードを通じて、詩の誕生の秘密を明かしてくれました。「沖縄の美しい海岸で拾ったヤドカリの殻をベランダに置いておきました。ところが翌朝、殻は消え、抜け出そうともがいた痕跡があり、脚が落ちていたのです。ヤドカリの殻だと思ったのは、生きているヤドカリ。自分のおぞましい行いを後悔しなげら〈やどかりみたいに やどかりみたいに〉という言葉を手帳に書き留めました。

その後、別の旅の途中で、チュニジアのジャスミン革命のことを知りました。一人の青年の焼身自殺に端を発し、民主化が大きなうねりとなったチュニジア。手帳を開くとかつて自分が書いた言葉があって、そこから詩が生まれたのです〈やどかりみたいに やどかりみたいに〉」。

キム・ソヨン詩人はこう語ります。「遠くで誰かが打ったものを受け止める、誰が発信者なのか、誰が受信者なのかわからないけれど、私がそれを受け止めたのだ」旅好きではなかったというオ・ウン詩人は、「現場の歴史と体と心に刻んだ」九州の旅の経験から、これからは旅を楽しみたいと言い「待つ人(キダリヌンサラム)」を朗読。

ポエムツアーで二人の詩人が感じたこと

菊池市のイベントでは、詩で繰り返される「待つ(キダリダ)」が、参加者の耳には「左(ひだり)だ」と聞こえ、そんな言葉と心の交流を通じて新たな詩が生まれた瞬間を「言葉遊びの詩人」らしい茶目っ気を交えて語ってくれました。

「何の目的も持たないとき、より良い創作者になれる」(キム・ソヨン)「無目的の目的を楽しみ、状況を注意深くのぞき込む者に詩が訪れる」(オ・ウン)

「ひと色ではない感情を表現する言葉を探す」永遠の旅人、詩人。彼らが自ら詩を読み、詩の生まれた瞬間を共有した贅沢な時間。「文字という檻」に閉じ込められる前、二人の詩人が音として発する言葉に、朝露が珠を結び、流れ落ちる瞬間のような瑞々しさを感じたのは私だけではなかったはずです。

イベントは姜信子さんが日本語で朗読するキム・ソヨン詩人の詩で締めくくられました。〈わたしはあなたの背後に あなたはわたしの背後に潜んでいる ほんとに ほんとに 楽しかった〉
(レポート:中村晶子)

当日の動画は以下のリンクから視聴できます

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共 催:⼀般社団法⼈ K-BOOK振興会、韓国国際交流財団
主管:K-BOOKフェスティバル実⾏委員会
後援:⼀般財団法⼈ ⽇本児童教育振興財団、
韓国⽂学翻訳院、韓国出版文化産業振興院、
駐日韓国大使館 韓国文化院、李熙健韓日交流財団、
アモーレパシフィック財団、韓流 20 周年運営委員会、
永田金司税理士事務所、ソウル市場、
株式会社国際エキスプレス、株式会社クオン