K-BOOKフェステイバル2023の開催に合わせて、韓国から来て下さったホ・ジョンユンさんと話題のエッセイ作家 チョン・ウネさんが登場しました。心の奥の話を簡潔ながら力強く作り上げた作品を持ち、それぞれ翻訳者と共に登壇しました。最後に『普通のノウル』(評論社)の翻訳者、山岸由香さんも登場! 注目の新刊を紹介しました。
絵本『おとうさんをかして』(岩崎出版 2023)の作家ホ・ジョンユンさん
最初のゲストは、絵本『おとうさんをかして』(岩崎出版 2023)の作家 ホ・ジョンユンさんと翻訳者の古川綾子さんです。(進行役は岩崎出版の吉岡雅子さん)
まず、ホ・ジョンユンさんがこう語りました。「アンニョンハセヨ。お会いできて嬉しいです。文学というのは自分の人生を書き写すことです。自分の経験を比喩的に表現したり、加工したりしたものでも、最終的には自分の人生を振り返ることになります。これが率直な文章となり、皆様に共感され、伝わっていくんだと信じています」
創作の源やテーマについて話した後、『おとうさんをかして』の日本語版が出た感想とご自身の経験をテーマにした理由、最小限の文章で作られた意図、そして絵を担当したチョ・ウォンヒさんとコンビを組んだ経緯などの質問に答えられていました。
また、古川さんは、翻訳について小説翻訳とはまた違う難しい作業だったと話しました。「小説は絵がなくテキストだけで表現されているので、そのまま訳すと理解しにくい部分が出てきます。 伝わりやすいように意味を探りながら<足し算>を意識して作業をします。しかし、絵本は文章が書き表さない部分を絵が、絵が残した余白を文章がお互いに補ったり、声を出して読むリズム感も大事です。翻訳が調和を損なわないように、本来の持ち味を生かせるように考えながら翻訳しました。本当に難しかったです」
最後に読者に伝えたいメッセージとして、「子どもたちはすでに生きることと死ぬことについて分かっています。この本は私の欠乏を直接的に表現したものですが、この欠乏が私をより強くしています。お父さんが亡くなった悲しみをホームランのように打ち飛ばせる方法をお伝えできたらと思っています」とホさんは軽快ながらパワフルな声で話を終えました。
『ウネさんの抱擁』の作家チョン・ウネさんと父親ソ・ドンイルさん
二番目のゲストは、絵エッセイ『ウネさんの抱擁』(葉々社、2023)の作家チョン・ウネさんと彼女の父親ソ・ドンイルさんです。(通訳は本の翻訳を担当した、たなともこさん)
お父さんが質問して娘が答える形で、ウネさんが絵を描くようになった経緯を聞かせてくれました。お父さんが「絵を描く前はどうしていた?」と聞くと、ウネさんは「洞窟(自分の部屋)の中でうつになったり、人生のどん底まで落ちた感じでした」と答えました。
チョンさんは社会から断絶されていましたが、2013年から絵(似顔絵)を描き始め、出会いと交流が始まります。これまで4500人余りの似顔絵を描き、自分だけの芸術世界を作り、さらに人々を抱きしめて慰める作家へと成長しました。
お父さんが「ウネさん、抱擁する時はどんな感じですか?」と尋ねます。「暖かさ、友情、出会い、縁、愛、そんな抱擁です。」とウネさんは答えました。「今日、東京の皆さんと抱擁したいですか?」という問いかけにた対してウネさんは、「しなくちゃ!」と力強く答えました。
翻訳家の山岸由香さん
三番目のゲストは、翻訳家の山岸由香さんです。15年間映像翻訳をしてきた山岸さんが初めて翻訳した青春小説『普通のノウル』を持って登壇。知らず知らずのうちに偏見と差別を語る大人たちにむしろ読んでいただきたいと話しました。また、成績やテスト、進路、恋、SNSなどに悩む高校新入生の生き抜くための法則『優等生サバイバル』についても紹介しました。
このイベントを聞いていた私は、遠くから来たお客さまがどんなお土産を持ってきたのか楽しみにしている子どものように身を乗りだし、耳を傾けていました。胸いっぱいプレゼントを頂いたように思えるイベントでした。
また、チョン・ウネさんの「しなくちゃ!」という力強い声が、まるで大きな壁を越えようとする音に思えて、今回のフェスティバルのテーマである「こえる 넘고 넘어」が胸に響いた瞬間でもありました。来年はどんなお客さまが来られるかな!?
(レポート:チャン・ヨンス)
当日の動画は以下のリンクから視聴できます