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2023.12.13
【イベントレポート】日韓SF作家対談 キム・チョヨプ×小川哲 -時をこえ、自分をこえて-

日本でも邦訳本が続々と登場し、今や韓国を代表するSF作家であるキム・チョヨプさんと、『地図と拳』で2023年1月に直木賞を受賞した小川哲さんによる豪華対談。キム・チョヨプさんが日本の読者の前で話すのは今回が初めて。注目を集める日韓の人気作家二人による90分の対談では、お互いの作品の感想や描く時代の違いなどを通じて、作家として追い求めるものを掘り下げていくような話し合いが行われました。進行はキム・チョヨプさん作品を数多く翻訳されているカン・バンファさんです。

お互いの作品の印象について

キム・チョヨプさんは「初めて作品が翻訳されたのが日本ということもあり、日本の読者には親しみを持っていた」と言います。日本で刊行されたばかりの第二短編集『この世界からは出ていくけれど』では、自分が属していた世界から他の世界に旅立つ人や、彼ら彼女らを見守る人たちが描かれています。キム・チョヨプさんはこうしたストーリーは私たちの人生に似通っていると言います。「私たちはどこかに属してはいるけれども帰属意識を得られないまま生きている人たちもいる。自分のアイデンティティを探しながら奮闘している人たちもいる」

キム・チョヨプさん

 

小川哲さんはキム・チョヨプ作品に共感する点として、身体的にも精神的にも人間がこうあるべきだと押し付けられて、苦しむ人たちが出てくることを挙げました。さらに他の作家とは一線を画す点として、『世界の果ての温室で』や『古の協約』を例に挙げ、人間だけでなく世界自体が正常であるかも問われていることに言及されました。

一方、キム・チョヨプさんは小川哲さんをスマートで知的な物語を書く人だと印象を語りました。韓国では『君のクイズ』が刊行され、『嘘と聖典』が刊行に向けて進行中。何かに挑戦する設定が多く見られることについて小川哲さんは、「小説を書くときに一番大切にしているのは、他者を知りたい気持ち」と語りました。

未来を描く理由、歴史を描く理由

作品で描く時代設定に質問が及んだ際、キム・チョヨプさんは未来を書く理由を「現実がいやで他の空間に行きたいという想いから未来を多く書いていたように思います。未来から見た未来や、未来から見た過去を描くことで、恋しさや寂しさなどを楽しんで書いていた」と述べれば、小川哲さんは過去を書く理由を「歴史の題材を書くということは、会ったことのない宇宙人について考えることに近いと思っている」と語りました。

ここからさらに話は掘り下げられ、キム・チョヨプさんは暗い世界の中で光を見出す作業に意味を感じるようになったと言い、最近は数十年前に人権運動をしていた活動家たちのドキュメンタリーに関心があると述べました。「暗闇の中に置かれた人たちが動いていく、戦いながら前進していく、そのような姿に光を感じるし、そのような光を描いていきたい」

小川哲さんは宇宙人のような存在を書こうとする意図を「宇宙人を書くことは自分の前提を引きはがすこと。自分の価値観を一回リセットすること」と説明。「歴史について考えたり、遠い未来の人類について考えるのは、どちらも自分が暗黙のうちに持ってしまっている前提を洗い出す行為。それは小説を書くことでしかできない」

この後も、未来や過去に時をこえることと自分をこえることの繋がりや、理解することへの危険性に言及したり、さらには全知全能とはという問いに答えたり、作家としての弱点をさらけ出したり――。と、時には笑いに包まれながら、終始和やかに対談は行われました。

お二人の作品は共感しやすく、読者を楽しませてくれますが、その作品の根底にある「他者を知る」「理解する」ことへの強い探究心が伺える対談でした。キム・チョヨプさんが今後はこれまでの領域を飛び出して、違った題材や雰囲気の作品を書きたいと言われていたので、この先の作家の変化にも目が離せません。
(レポート:文学ラジオ空飛び猫たち ミエ)

当日の動画は以下のリンクから視聴できます

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主管:K-BOOKフェスティバル実⾏委員会
後援:⼀般財団法⼈ ⽇本児童教育振興財団、
韓国⽂学翻訳院、韓国出版文化産業振興院、
駐日韓国大使館 韓国文化院、李熙健韓日交流財団、
アモーレパシフィック財団、韓流 20 周年運営委員会、
永田金司税理士事務所、ソウル市場、
株式会社国際エキスプレス、株式会社クオン