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2020.12.02
イベントレポ:ベストセラーを創る装幀力 ~2つの『キム・ジヨン』が生まれるまで~

韓国で136万部、日本で20万部を突破したチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』。モノトーンの女性の後ろ姿と影(韓国版)、「顔」のない女性(日本版)という表紙を創ったブックデザイナーのチェ・ジウンさんと名久井直子さんがオンラインで対談しました。

第1部のテーマは「2つのキム・ジヨンが生まれるまで」。まず、お二人が互いにキム・ジヨンの表紙に対する第一印象を話しました。名久井さんは、当時、日本では今ほど韓国文学がメジャーではなかったため、(日本版の表紙は)韓国版よりもっと「こういうものだよ」とわかるようにしたほうが目立つのではないかと思ったそうです。一方、チェさんの日本版への第一印象は「負けた」。韓国では既存の作品を借りてデザインすることが多いが、日本版はこの本のために特注したのかと思うほど内容をよく表していると感じたそうです。

次にお二人の経歴やこれまでに担当した装幀を実際の書影と共に紹介しました。大学で視覚デザインを専攻したチェさんは卒業後、キム・ジヨンを出版した「民音社」に入社。美術部で主に人文・小説のデザインを担当し、吉本ばななや奥田英朗、堀部篤史など日本の翻訳本もデザインしたそうです。海外全集やシリーズものを多く手掛けているそうで、まるで絵画作品のような表紙デザインを多数見せてくれました。名久井さんも大学で視覚伝達デザインを専攻。卒業後しばらく広告代理店で働き、現在はフリーのブックデザイナーとして活動しています。豪華な装幀の『100年ドラえもん』45冊セットや、洋紙ではなく青い越前和紙を用い、表紙に文字が一切記されていない谷川俊太郎の『あたしとあなた』など、担当した本の中から特に個性的なものを紹介。どうやって実現したのかとチェさんが驚く場面もありました。

「キム・ジヨン誕生秘話」も披露してくれました。チェさんは「自分も82年生まれで、大学卒業、就職、結婚、出産を経ながら直面する問題は個人が解決すべきだと思っていたが、この本を読んで社会が共に考えていくべき問題だと考えるようになった。担当編集者も世界の全女性を代弁する物語だと解釈していたので、そういうことからデザインを考えていった。女性という言葉から連想する典型的な事柄をなるべく排除し中立的であるよう心がけた」と。名久井さんは「国が違っても女性の思いや立場は変わらないと感じた。いつもよりやや“声高な”感じにはしたものの、日本人作家の作品を担当するときと同じような気持ちで普段どおりに仕事をしたという印象。アイデンティティーをなくし顔を鏡に映しても鏡の中ですら自分が映らないという、絶望的に『自分がない』という状況を絵解きで表現した」と説明しました。


第2部は「2人の装丁家が生まれるまで」
がテーマ。まず、お二人の忘れられない1冊が紹介されました。名久井さんは挙げたのは中学2年のときに買った吉田戦車の『伝染るんです。』。漫画がねじ曲がって配置されたり、同じ見開きが2回続いたりというデザイン上の破綻がとても面白く感じられ、デザイナーのやれることの広さを知ったと言います。初めてブックデザイナー(祖父江慎)の名前を覚えた、自分の未来を決めた1冊だったと。チェさんもやはり中学生のときに出合ったNick Bantockの『不思議な文通』(3部作の第2作/下記写真)を挙げました。ページに貼られた封筒の中に手紙が入っているという斬新なデザインです。誰かが手に取ったときに欲しくなるような本を作りたいと思うようになったのは、当時のこの本との出合いがきっかけだと。実は名久井さんも中学生のころ『不思議な文通』の第1作を買っていたそうです。互いに中学生のときに同じ本を読んでいた2人が、大人になって同じ本の表紙デザインに携わったという事実は印象的でした。

デザインを決める前に何回くらい本を読むかという質問にチェさんは「ほぼ読まないこともある。読み込みすぎると本質的な部分から離れてしまうこともあるので、編集者とのコミュニケーションを大事にする」、名久井さんも「詩集は何度か読むこともあるが、小説は1回」という答えだったのは意外な気がしました。

最後に「私にとって装幀とは」という問いに、名久井さんは「古いテキストをいかに遠くまで残していくかというバケツリレーの手助けをしているイメージ」。チェさんは「原稿が本になっていく過程で自分の“色”を加えていくが、その色や隠された意図を読者が読み取る行為が一つの経験になり、また本を買うこと自体が意味のある経験になるようにするのがデザインだと思う」と答えました。

(レポーター:牧野美加)

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