韓国の伝統芸能パンソリの唄い手、安聖民さんによる公演です。
冒頭、短歌「白髪歌」が日本語訳の字幕つきで披露されました。短歌は唄い手が本格的に唄う前に喉の調子や観客の反応を確かめるために2~5分唄うものです。
続いて、パンソリについてわかりやすく解説してくれました。パンソリは鼓手の太鼓のリズムに合わせて唄い手が歌ったり話したりしながら物語をつなぐ語り芸です。パンは人々が集まって物事を繰り広げる場、ソリはこの世のさまざまな音を表します。唄い手は自然の音から人の感情まで一人芝居をするように唄い語り、観客は唄い手の語る世界を思い描いて楽しみます。
パンソリは18世紀中頃から村の広場で大道芸の一つとして庶民に楽しまれていました。のちに支配階級の両班(ヤンバン)たちの庭や座敷でも演じられるようになり、内容も両班の好みに合わせて漢詩や故事成語などが用いられ多彩になります。パンソリの最盛期は朝鮮時代後期の19世紀。名唱と呼ばれる実力のある唄い手たちが活躍しました。20世紀に入ると、それまでの独唱という形から多くの出演者が劇場で演じる唱劇へと形態が多様化し、創作パンソリも数多く作られています。
パンソリの伝承は師匠から弟子への口伝で、楽譜はなく歌詞があるのみです。しかも朝鮮時代、唄い手たちはほとんど字が読めなかったため、まさに師匠の声を耳で聞き口で再現していました。朝鮮後期に人気のあった古典パンソリ12演目のうち、現在伝わっているのは春香歌、沈清歌、水宮歌、興甫歌、赤壁歌の5演目だそうです。
こうした解説に続いて、水宮歌が披露されました。古典演目の中で唯一、多くの動物が登場する寓話的な作品です。全編を語ると2時間半かかるため、竜王の病を治そうと薬になるウサギの肝を求めて海の底から地上にやってきたスッポンがウサギと出会うまでの約15分を演じました。日本語訳の字幕つきで理解しやすく、まるでその光景が目の前で繰り広げられているかのような楽しく躍動感のある公演でした。
(レポーター:牧野美加)
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